あみだくじ

大学2年生 読書、お笑い、ラジオ、音楽、考えたこと

『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』感想/本当の戦争のお話


「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか? ベトナム帰還兵がかたる『ほんとうの戦争』」という本を読みました


平たく言ってしまえば戦争体験の本ですが、人を殺めてしまった兵士から語られます


貴重な本です


著者アラン・ネルソンとは

1947年、ニューヨーク・ブルックリン生まれのアフリカ系アメリカ人海兵隊員としてベトナム戦争の前線として戦う。帰国後の戦争による精神的後遺症から立ち直った後、日米両国で精力的に公演活動を行い、戦争の現実を訴え続ける。2009年3月逝去。



ネルソン氏はベトナム戦争海兵隊として人を殺す、仲間が殺されるなど凄惨な経験をします。それから戦争が終わると、罪悪感や精神的後遺症(PTSD)に苛まれホームレス生活を余儀なくされます。しかし、小学校で戦争体験の講演を行ったことを契機に戦争の真実を伝えるという使命にかられ、講演活動をしていました。


日本国憲法第9条を知って以来、「世界中の国々がこの第9条を共有すべき」「第9条こそが戦争をなくす唯一の道だと思うのです」という風に語っています


本の概要

多くの人を殺した元海軍兵が語る戦争の現実。軍隊の訓練とはどんなものか? 殺した敵の死体はどうするのか? 戦争のにおいや音は? ベトナム戦争の体験をもとに、「ほんとうの戦争」とは何かを伝える一冊

貧困と人種差別から解放されるために18さんでは言った海兵隊。そこでの訓練やで、人殺すことのためらいや、罪の意識が薄れていく。やがて戦地に赴くことになり、降り立ったのは、ベトナム。「本当の戦争は無慈悲で残虐で愚かで、そして無意味です」著者の口から静かに語られる、殺し合うことの悲惨さ、命の尊さが心を揺さぶる。


この本の題名である「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」という言葉は実際にネルソン氏が少女に聞かれたものです。

中学の頃の同級生に頼まれて、小学校で講演をした時のこと。大雑把な数やピントのぼやけたイメージを駆使し、小さな子供には言えないような自分のしたことについては語らなかったそう。

一通り話し終わり、質問を募っていたら最後に少女がした質問が、本の題名です



感想

戦争の凄惨さ



戦争体験の話を伺ったことは今まで2度ありました。小学校のころ道徳だったか総合の時間におばあちゃんが三人くらい来て講演をしてくれたのが1度目。電車で席を譲ったら、嬉しそうに話しかけてくれたおじさんがしゃべってくれたのが2度目。

どっちも話をしてくれたということ自体は覚えているんだけれど、どっちも内容を全く覚えていません。多分、そこまで印象に残らなかったのは小さな僕に気を使って、なるべく僕に負担がかからないように話してくれたからだと思います

席を譲ったら心の底から感謝してくれて、みたらし団子を買ってくれたあのおじさんも、もしかしたら人を殺めていたのかもしれません



この『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』の著者であるアラン・ネルソン氏は本の中で、ハッキリと殺人の経験があることを告白しています。それも本の中で何度も殺した描写が出てきます。


兵士の視点から語られる戦争の話を聞く、読むのは初めてでした。説得力が違います

本の終盤でネルソン氏は戦争のことを「本当の戦争は無慈悲で残虐で愚かで、そして無意味です」と語ります。

加えて

前線で実際に戦ったもので戦争の賛美するものは一人もいません。もし、戦争を経験していてもなお、戦争を肯定するものがいたとしたら、その人は後方の基地でデスクに向かっていたか、炊事班でコックをしていたかで、人が殺し合う前線に行ったことがない人に違いありません

と語ります。

結局、戦争を繰り返そうとするのは前線に立たない者。みんな戦争がいかに愚かであるか理解しないといけないんですね


戦争はやがて終わる


この本は元兵士によって語られる体験談ですが、兵士が戦争を終えた後のことについてはあまり語られてこなかったのではないでしょうか。

兵士として訓練し戦争を経ると、人間が死ぬことに何も思わなくなってしまうそう。慣れというのは怖いもので死体を確認しても臭いとしか感じないようです。

戦場で感情など持ち込んでしまえばすぐに殺されてしまいます。生き残るためには、敵を殺すためには無感情のほうが合理的なのです。

ですがいつか戦争は終わります。終わりに近づくにつれて、自分の感覚に疑問を持ってしまうのです。今まで人を殺しても無感情だったのに、戦争が終わって気づくのです、自分はなんてことをしたのかと。

家族のもとへ帰っても毎晩のように悪夢にうなされたそうです。燃え上がるベトナムの村、断末魔の叫び、子供たちの恐怖に満ちた顔。悪夢のせいで家族もネルソン氏を恐れます。

そして家を出てホームレスとなるわけですが、その生活をこのように語ります

ホームレスの生活は、ある意味で幸福でした。自分の悪夢のせいで家族が苦しんでいるという罪の意識から解放されたからです

ホームレス生活が幸福に感じてしまうほど、戦争を変えた後の生活は苦しかったのです。これはネルソン氏だけではなく、他の兵士も悪夢と戦っていました。



戦争が兵士の視点から語られた貴重なこの本。ぜひ読んでみてはどうでしょうか


それでは!